夏の融点
かき氷は想像の三倍くらいの速さで溶ける。
いま、僕の目の前にはあんみつが、彼女の目の前にはかき氷がある。向かい側に座った彼女の、胸元のすこしひらいたワンピースが涼しげで素敵だ。さしせまった今夏の予定を話し合うためにここに来たから、スケジュール帳を確認しようと彼女から視線を外し、そしてそれに気づいた。かき氷、もうちょっと溶けてる。
来るべき素晴らしい夏の予感を纏って我々の目の前に登場したはずのそれは、すでに頼りなさげに形を崩し始めていた。かき氷ってこんなにすぐ溶けるものだったっけ、などと考えながらしばらく動かなくなった僕を見て彼女が言う。
「ねえ、はやくしないと夏終わっちゃうよ」
僕は「あー、うん。そうだよね」とぼんやり答えながら、これから想像の三倍くらいの速さで過ぎていくだろう夏のことを思った。